
ことばを言い換えよう⑦ 「〜と思います」をどう言い換えるか

「〜と思います」は便利だが、意味があいまい
「〜と思います」は、日本語を勉強し始める人がとてもよく使う言い方です。
| いいところ | 何がいい? |
|---|---|
| やわらかい | 強く言いすぎない |
| はっきり言い切らない | まちがっても直しやすい |
| 失礼になりにくい | 相手の気持ちをこわしにくい |
でも、便利なぶん、何を言いたいのかが分かりにくくなることがあります。
たとえば、次の文は正しいですが、聞いた人は少し困るかもしれません。
それは、よくないと思います。
ここで大切なのは、次の3つです。
- 意見なのか(自分の考えを言う)
- 予想なのか(まだ分からないが、たぶんそうなる)
- 気づかいなのか(相手にやわらかく言う)
同じ「と思います」でも、目的がちがうと、言い方も変わります。
「〜と思います」が持つ3つの機能
「〜と思います」は、ひとつの意味ではありません。主に次の3つの機能があります。
- 意見・考えを言う
- 予想(まだ分からないことを言う)
- はっきり言うのを少し弱くする(気づかい)
つまり「思います」は、考え・予想・気づかいが同時に入ることがある言葉です。
だからこそ、言い換える前に、まず自分に質問しましょう。
| 先に決めること | 自分への質問 |
|---|---|
| 目的 | いま、何をしたい?(意見/予想/気づかい) |
| 立場 | 私の経験?それとも、ルール? |
| 根拠 | どうしてそう思う?(理由はある?) |
根拠(こんきょ)
「そう言える理由」のことです。データ、経験、状況(いま見えていること)などです。
機能①:意見を述べたいとき
自分の考えを伝えたい場合、「と思います」でも言えます。
この方法がいいと思います。
ただ、「思います」だけだと、ただの感想に聞こえることがあります。
仕事や学校の話では、理由がある意見として言ったほうが分かりやすいです。
言い換え例(意見)
- この方法がよいと考えています。
- この方法がよいと判断しています。
- 私の意見としては、この方法がよいです。
ポイントは次の2つです。
- 「考える」「判断する」を使うと、理由がある感じが出ます。
- 「私の意見としては」を入れると、事実ではなく意見だと分かります。
判断(はんだん)
情報を見て、いい・わるいを決めることです。
機能②:予想・推測をしたいとき
まだ分からないけれど、たぶんそうなると考えるときも、「と思います」を使います。
明日は混むと思います。
でも、相手はこう思うかもしれません。
- ただの気分?
- 理由はある?
- どのくらい混む?
予想のときは、分からないことと**理由(根拠)**を少し出すと、安心して聞けます。
言い換え例(予想)
- 明日は混むかもしれません。
- 明日は混む可能性があります。
- 今日は休日なので、明日も混みそうです。
可能性(かのうせい)
「そうなることがありえる」という意味です。「絶対」ではありません。
機能③:はっきり言うのをやわらかくしたいとき
相手の気持ちに気をつけたいとき、「と思います」で言い方をやわらかくします。
そのやり方は間違っていると思います。
でも、この言い方は、相手によっては強く聞こえます。
「間違っている」と言われると、気分がよくない人もいます。
この場合は、結論を少し弱くして、次の行動を出すと伝わりやすいです。
言い換え例(気づかい)
- そのやり方は、少し見直したほうがよいかもしれません。
- 別のやり方も考えられます。
- 私の理解では、別の進め方もできそうです。
ポイントは次の3つです。
- 「間違い」と言い切らずに、見直すと言う
- 「別のやり方」を出して、相手をせめない
- 「私の理解では」で、自分の見方だと示す
言い換えの方向性(読み・IPAつき)
目的ごとに、短くて分かりやすい言い換えへ変えます。
| 言い換えの型 | 目的 | 例文 | 読み(かな) | 発音(IPA) | 機能の説明 |
|---|---|---|---|---|---|
| 意見を言う | 自分の考えを、意見として出す | この方法がよいと考えています。 | この ほうほう が よい と かんがえています | [ko̞no hoːhoː ɡa̠ jo̞i to kaŋɡae̞teimasɯ] | 感想より「理由がある意見」に近づく |
| 意見を言う | 立場をはっきりさせる | 私の意見としては、この方法がよいです。 | わたし の いけん としては この ほうほう が よい です | [wataɕi no ike̞ɴ to̞ɕitewa ko̞no hoːhoː ɡa̠ jo̞i desɯ] | 「事実」ではなく「意見」だと示す |
| 予想を言う | まだ分からないことを言う | 明日は混むかもしれません。 | あした は こむ かも しれません | [aɕita wa ko̞mɯ kamo ɕiɾe̞masẽɴ] | 100% ではないことを伝える |
| 予想を言う | ありえることを言う | 明日は混む可能性があります。 | あした は こむ かのうせい が あります | [aɕita wa ko̞mɯ ka̠no̞ːse̞ː ɡa̠ aɾimasɯ] | 「起こるかもしれない」を少し丁寧に言う |
| 気づかいで言う | 強い言い方を弱くする | 少し見直したほうがよいかもしれません。 | すこし みなおした ほうが よい かも しれません | [sɯkoɕi minao̞ɕita hoːɡa̠ jo̞i kamo ɕiɾe̞masẽɴ] | 相手をせめずに改善へ向ける |
| 気づかいで言う | 自分の見方だと示す | 私の理解では、別の進め方もできそうです。 | わたし の りかい では べつ の すすめかた も できそう です | [wataɕi no ɾikai de̞wa be̞tsɯ no sɯsɯme̞kata mo de̞kis̠oː desɯ] | 断定を避け、会話を続けやすくする |
IPA は近似です。母音の長さや「ん」の音は話し手で少し変わります。かなと合わせて確認してください。
実際の使い分け例(接客とビジネス|読み・IPAつき)
「と思います」を使いすぎず、場面に合う文へ言い換えてみましょう。
| シーン | 何を言いたい? | 適切な言い換え | 読み(かな) | 発音(IPA) | 伝わり方のポイント |
|---|---|---|---|---|---|
| 接客(混雑) | 予想+お知らせ | 本日は混みそうです。お時間に余裕をお願いします。 | ほんじつ は こみそう です。おじかん に よゆう を おねがいします | [ho̞ndʑitsɯ wa ko̞mis̠oː desɯ. o̞dʑika̠ɴ ni jo̞jɯː o̞ o̞ne̞ɡai ɕimasɯ] | 予想+次の行動で、相手が動きやすい |
| 接客(注意) | 気づかい+お願い | こちらは滑りやすいので、気をつけてください。 | こちら は すべりやすい ので きを つけて ください | [ko̞tɕiɾa wa sɯbe̞ɾijasɯi no̞de̞ ki o̞ t͡sɯke̞te kɯdasai] | 「と思います」を使わず、理由を出して丁寧に言う |
| 社内(提案) | 意見+理由 | 私の意見としては、この方法がよいです。時間が短くなります。 | わたし の いけん としては この ほうほう が よい です。じかん が みじかく なります | [wataɕi no ike̞ɴ to̞ɕitewa ko̞no hoːhoː ɡa̠ jo̞i desɯ. dʑika̠ɴ ɡa̠ midʑikakɯ naɾimasɯ] | 意見だと示し、理由も言う |
| 社内(予定) | 予想 | この作業は、明日までに終わりそうです。 | この さぎょう は あした まで に おわりそう です | [ko̞no saɡjo̞ː wa aɕita made̞ ni o̞waɾis̠oː desɯ] | 見込み(たぶん)を出して、共有する |
| 社外(やわらかい否定) | 気づかい+提案 | その案は、少し見直したほうがよいかもしれません。別の案も見てみませんか。 | その あん は すこし みなおした ほうが よい かも しれません。べつ の あん も みてみませんか | [so̞no a̠ɴ wa sɯkoɕi minao̞ɕita hoːɡa̠ jo̞i kamo ɕiɾe̞masẽɴ. be̞tsɯ no a̠ɴ mo mite̞mimasẽɴ ka] | 「間違い」と言わず、次の案へ進める |
| 友だち(感想) | 意見(軽い) | 私は、こっちのほうが好きです。 | わたし は こっち の ほう が すき です | [wataɕi wa ko̞tːɕi no hoː ɡa̠ sɯki desɯ] | かたい言葉を避け、自然に言う |
「と思います」を使うときの小さなコツ
1) 「理由」を1つだけ足す
「と思います」に理由を足すと、いきなり分かりやすくなります。
- × 明日は混むと思います。
- ○ 明日は休日なので、混むと思います。
2) 「私は」を入れて、意見だと見せる
相手が「事実」とまちがえないようにできます。
- 私は、そう思います。
- 私は、そう考えています。
3) きびしい話は「次に何をするか」を言う
やさしく言いたいときは、「直す」「変える」などの行動へつなげます。
- このままだと大変です。少し直しましょう。
- いったん見直して、もう一度確認しましょう。
よくあるミスと直し方
| よくある文 | 何が困る? | 直し方(例) |
|---|---|---|
| それはだめだと思います。 | だめの理由が分からない | それは難しいです。理由は時間が足りないからです。 |
| たぶん大丈夫だと思います。 | 「たぶん」+「思います」で弱すぎる | 今の情報では大丈夫そうです。 |
| 間違っていると思います。 | 相手が強く感じることがある | 少し見直したほうがよいかもしれません。 |
まとめ
「〜と思います」は便利な表現ですが、
- 何をしたいのか(意見/予想/気づかい)
- どの立場で話しているのか(経験/ルール/今の状況)
を意識しないと、正しいのに伝わりにくい日本語になります。
「思います」を使う前に、目的に合った言い方を選びましょう。
そして、できるなら「理由」を1つだけ足すと、もっと伝わりやすくなります。
おまけ

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