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ことばを言い換えよう⑤ 「お願いします」にある本当の意味を考える

Kotoba Drill スタッフ

今日のテーマ

「お願いします」は、日本語で最もよく使われる依頼表現の一つです。
買い物、仕事、学校、オンラインチャットなど、ほとんどすべての場面で出てきます。

とても便利なことばですが、同時に意味があいまいになりやすい表現でもあります。
「依頼」「あいさつ」「感謝」「締めのことば」など、文脈によって役割が変わるからです。

たとえば、次のような会話があります。

  • 「書類の確認、お願いします。」
    → 具体的な作業をお願いしている
  • 「本日もよろしくお願いします。」
    → 仕事の前のあいさつ、協力をお願いしている
  • 「いつもありがとうございます。今後ともお願いします。」
    → 感謝と、これからも続く関係を願っている

このように、同じ「お願いします」でも、相手との関係・場面の形式・話し手の目的によって意味が変わります。
今回は、「お願いします」を機能別に整理し、状況に合った言い換えを考えていきます。


なぜ「あいまい」なのか

「お願いします」は、文法的には名詞「お願い」と動詞「する」からできた複合動詞「お願いする」の丁寧形です。
しかし、会話の中では、名詞部分だけが独立して使われたり、前後のことばが省略されたりすることが多いです。

そのため、次のように複数の目的で使われるようになります。

機能意味読み方発音(IPA)
依頼相手に行動をしてもらうように頼むご確認をお願いします。ごかくにんを おねがいします。[go kakɯnin o onega.i ɕimasɯ]
あいさつ対話の初めや終わりに使う決まり文句よろしくお願いします。よろしく おねがいします。[joɾoɕikɯ onega.i ɕimasɯ]
感謝+依頼協力に感謝しつつ、今後の協力も求めるいつもありがとうございます。今後ともお願いします。いつも ありがとうございます。こんごとも おねがいします。[itsɯmo aɾigatoː gozaimasɯ. koŋgo tomo onega.i ɕimasɯ]
社交関係をやわらかく保つための表現本日もよろしくお願いいたします。ほんじつも よろしく おねがいいたします。[hoɴdʑitsɯmo joroɕikɯ onega.i itaɕimasɯ]

形はほとんど同じなのに、機能が変わるとニュアンスも大きく変わります。
さらに、会話では次のような省略もよく起こります。

  • 「ご確認をお願いします。」 → 「確認」という名詞があり、内容がはっきりしている
  • 「お願いします。」 → 何をお願いしているのかが省略されている(=文脈に依存する)

この「省略」によって、相手に想像してもらうやわらかさが生まれます。
一方で、情報が足りなくなり、誤解のリスクが高くなるという問題もあります。
特にビジネスメールや接客の場面では、「何を」「どこまで」お願いしているのかを、ことばで補うことが大切です。


言い換えの方向性(読み方・IPAつき)

「お願いします」は、そのまま使うとあいまいになりやすい表現です。
そこで、「何をお願いしたいのか」「どのような協力がほしいのか」をはっきり書くように言い換えます。

ここでは、よくあるパターンを4つに分けて考えます。

言い換えの型目的例文読み方発音(IPA)機能の説明
行動の依頼相手に具体的な作業をしてもらうご確認いただけますか。ごかくにん いただけますか。[go kakɯnin itadakemasɯka]「ご確認」という行動をはっきり示すことで、何をしてほしいかが分かりやすくなる。
行動の依頼ていねいに作業をお願いするご対応をお願いいたします。ごたいおうを おねがいいたします。[go tai.oː o onega.i itaɕimasɯ]「対応」ということばで、処理・手続きなどの広い作業をまとめて依頼できる。
継続の依頼これからも協力をお願いする今後ともよろしくお願いいたします。こんごとも よろしく おねがいいたします。[koŋgo tomo joroɕikɯ onega.i itaɕimasɯ]すでに関係がある相手に、これからも続けて協力してほしいと伝える社交的な表現。
感謝を含む依頼忙しい相手に気をつかいながらお願いするご多忙のところ恐縮ですが、ご確認をお願いいたします。ごたぼうの ところ きょうしゅくですが、ごかくにんを おねがいいたします。[go taboː no tokoro kʲoːɕɯkɯ desɯga, go kakɯnin o onega.i itaɕimasɯ]相手の忙しさにふれて、ねぎらいの気持ちを示しながら依頼することで、ていねいさが増す。
確認の依頼相手の判断・承認を求める問題ないかご確認ください。もんだいないか ごかくにんください。[moːndai nai ka go kakɯnin kɯdasai]行動の前に、内容がよいかどうかを確認してほしいと伝える形。
判断の依頼相手の意見を聞きたいときに使う差し支えなければ、ご意見をお聞かせください。さしつかえなければ、ごいけんを おきかせください。[saɕitsɯkae nakeɾeba, go ikʲeɴ o okikase kɯdasai]直接「お願いします」と言わずに、「ご意見を〜ください」でお願いの内容を明確にする。
Note

IPA はあくまで目安です。長母音(おおきい「お」など)や「ん」の音は、話し手によって少し変わることがあります。かなの読みといっしょに確認してください。


実際の使い分け例(接客とビジネス)

ここからは、接客とビジネスの場面での「お願いします」の言い換えを見ていきます。
どの例文も、意図を具体的に言い換えることを意識しています。

シーン言いたい意図適切な言い換え読み方発音(IPA)機能の説明
接客(レジ対応)お客さまに列に並んでもらいたいこちらにお並びください。こちらに おならびください。[koʨiɾa ni onarabikɯdasai]「お願いします」だけではなく、「並ぶ」という具体的な行動をていねいに指示している。
接客(受け渡し)間違いがないか確認してほしいご注文の内容をご確認ください。ごちゅうもんの ないようを ごかくにんください。[go ʨɯːmoɴ no naijoː o go kakɯnin kɯdasai]「お願いします」を使わず、してほしい行動をそのまま文にしている。
接客(注意したいとき)ていねいにルールを伝えたい他のお客さまのために、ここでの撮影はご遠慮ください。ほかの おきゃくさまの ために、ここでの さつえいは ごえんりょください。[hoka no okʲakɯsama no tame ni, koko de no satsɯeː wa go eɴɾʲo kɯdasai]「お願いします」をつけず、「ご遠慮ください」でやさしく禁止している。
社内(メール依頼)同じ会社の人に資料の確認と返信をしてほしい資料をご確認のうえ、ご返信をお願いいたします。しりょうを ごかくにんのうえ、ごへんしんを おねがいいたします。[ɕiɾʲoː o go kakɯnin no ɯe, go heɴɕiɴ o onega.i itaɕimasɯ]「確認」→「返信」の順番を示しており、相手が何をするかイメージしやすい。
社外(取引先)これからもよい関係を続けたい引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします。ひきつづき ごしえんのほど、よろしく おねがいいたします。[hikitsɯdzɯki go ɕieɴ no hodo, joroɕikɯ onega.i itaɕimasɯ]ていねいな社交表現で、協力関係を長く続けたい気持ちを伝えている。
社内(朝のあいさつ)仕事の前に協力をお願いしたい本日もよろしくお願いいたします。ほんじつも よろしく おねがいいたします。[hoɴdʑitsɯmo joroɕikɯ onega.i itaɕimasɯ]その日の仕事全体に対する、あいさつと協力のお願いをまとめて表すことば。
社外(お願いを断る)無理なお願いをていねいに断りたい申し訳ありませんが、今回は見送らせていただきます。もうしわけありませんが、こんかいは みおくらせて いただきます。[moːɕiwake aɾimasen ga, koŋkai wa mio?kɯɾasete itadakimasɯ]「お願いします」とは言わず、丁重に断ることで、関係をこわさずに NO を伝える。

文法的な観点

ここで、「お願いします」の文法的なポイントをもう少し整理してみましょう。

  1. 「お願いする」は名詞+動詞の形

    • 「お願い」:名詞(request)
    • 「する」:動詞(do)
      → 二つがつながって「お願いする」という一つの動詞のように働きます。
  2. 丁寧形になると「お願いします」になる

    • プレーン形:お願いする
    • 丁寧形:お願いします
      このとき、主語(誰が)や目的語(何を)が一緒に言われることもありますが、会話ではよく省略されます。
  3. 名詞部分だけが独立して使われることがある
    会話では、「お願いする」全体ではなく、「お願い」だけを取り出して使うこともあります。

    • 「一つお願いがあります。」
    • 「最後にもう一つだけお願いしてもいいですか。」

    このような文では、「何を」「どうして」お願いしたいのかを、あとに続く文で説明することが大切です。

  4. 省略によるやわらかさと、情報不足のバランス

    • 「確認をお願いします。」(依頼対象が明確)
    • 「お願いします。」(依頼対象が省略)

    省略された形は、やわらかく聞こえますが、情報が足りないこともあります。
    特にメールやチャットでは、声のトーンや表情が見えないため、ことばだけで情報を十分に伝えることが重要です。


まとめ

  • 「お願いします」は便利な表現ですが、目的があいまいなまま使われやすいことばでもある。
  • 機能を「依頼・あいさつ・感謝+依頼・社交」に分けて考えると、どんな気持ちで使っているかが見えやすくなる。
  • 言い換えの基本は、「何を」「どのように」お願いしているのかを、文の中で具体的に示すこと。
  • 特にビジネスや接客では、「依頼+具体的な行動」「あいさつ+関係維持」など、文の目的をはっきりさせることが大切。
  • 「お願いします」を一つの便利なフレーズとして覚えるだけでなく、場面に合った言い換えを少しずつストックしていくと、やさしい日本語でも丁寧に気持ちを伝えられる。

次回:ことばを言い換えよう⑥
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