
ことばで知る日本のくらし⑤ 電車で静かにするのはなぜ? ─ 思いやりをことばで学ぶ

今日のテーマ
日本の電車に乗ると、まわりの人は静かに過ごしています。話し声をひそめ、スマートフォンをマナーモードにして、落ち着いた雰囲気を大切にします。この「静けさ」は、日本の公共マナーの一つとして知られています。
では、なぜ電車で静かにするのでしょうか。答えは「思いやり」にあります。この記事では、やさしい日本語で、静けさの理由と、相手を大切にする言い方を学びます。
今日のことば(よみかた と IPA つき)
| 日本語 | よみかた | IPA | 意味・使い方 |
|---|---|---|---|
| ご遠慮ください | ごえんりょください | [ɡo eɴɾʲo kɯdasai] | 控えてほしい行動をやわらかく伝える表現。例:「通話はご遠慮ください。」 |
| お静かにお願いします | おしずかにおねがいします | [o ɕizɯka ni o neɡai ɕimasɯ] | 周囲への配慮をうながす丁寧なお願い。 |
| マナー | まなー | [manaː] | 礼儀・ふるまいのルール。公共マナーとして知られる。 |
| 思いやり | おもいやり | [omoijaɾi] | 相手の立場を考え、迷惑をかけないようにする心。 |
| ご協力ください | ごきょうりょくください | [ɡo kʲoː ɾʲokɯdasai] | 一緒に守ってほしい時に使う依頼の表現。 |
| 〜ないでください | 〜ないでください | [naide kɯdasai] | 「〜しないでください」と禁止をやさしく伝える。例:「大声で話さないでください。」 |
IPA は学習用の目安です。地域や話し方によって少し音が変わることがあります。
文化メモ:静けさの中のやさしさ
日本では、公共の場で静かにすることが、他の人への思いやりだと考えられています。電車の中では、知らない人同士が同じ空間を使います。だからこそ、「他人に迷惑をかけない」という気持ちが大切にされます。
日本語の「静か」には、音が少ないだけでなく、心が落ち着いているという意味もあります。静かにすることは、まわりの人と自分の心を平和に保つ行動でもあります。
体調が悪い人や赤ちゃんがいる人、仕事で大事な連絡を待っている人もいます。静かにすることは、弱い立場の人を助けることにもつながります。
文法ポイント:やさしく伝える日本語表現
日本語では、相手を尊重するために、命令の形よりも、お願いの形をよく使います。電車やバスなどの公共の場では、とくに丁寧な表現が大切です。
「〜ください」:ていねいな依頼
例:「席をゆずってください。」相手に行動をお願いするときの基本の形です。
「〜ないでください」:やさしい禁止
例:「大声で話さないでください。」相手を責めずに、やめてほしい気持ちを伝えます。
「〜ないように」:配慮を表す言い方
例:「他の人の迷惑にならないようにしましょう。」自分も相手もふくめて、協力をお願いする表現です。
「〜てもいいです」:許可をたずねる
例:「ここで話してもいいですか。」相手の気持ちを確認する、やさしい言い方です。
言い方を少し変えるだけで、印象が大きく変わります。やわらかい表現は、相手を大切にする気持ちを伝えます。
世界の「静けさ」文化をグループで見てみよう
世界の国や地域でも、「静けさ」の感じ方はさまざまです。ちがいを知ると、日本の特徴がよく見えてきます。
【静けさを思いやりとする文化】
- 日本・韓国・タイなど。公共の場で静かにすることは、周囲への配慮を示す行動です。
【自由と自然体を大切にする文化】
- アメリカ・フィリピン・インドネシア・マレーシアなど。静けさよりも、自分らしさや社交性を大事にします。会話は自然な交流と考えられます。
【にぎやかさを安心と感じる文化】
- 中国・ベトナム・インド・ネパール・バングラデシュなど。会話や音は生活のリズムで、沈黙よりもにぎやかさを好むことがあります。
文化のちがいは良い悪いではありません。どの文化にも、その社会の思いやりの形があります。
ミニ会話(電車の中のやりとり)
場面:友だちと小さな声で話したいとき。
− A:ここで少し話してもいいですか。 − B:はい、いいですよ。声は小さくしましょう。 − A:ありがとうございます。通話はしないでおきます。
| 表現 | ポイント |
|---|---|
| 〜してもいいですか。 | 許可をたずねる、ていねいな形。 |
| 声は小さくしましょう。 | 自分も相手もふくめた提案の形。 |
| 通話はしないでください。 | やさしい禁止。案内表示にもよく使う。 |
看板や車内アナウンスの言い換え例(やさしい日本語)
- 「車内での通話はお控えください。」→「電車の中で電話をしないでください。」
- 「優先席付近では、マナーモードに設定のうえ通話はお控えください。」→「優先席の近くでは、スマートフォンをマナーモードにして、電話はしないでください。」
- 「周囲のお客さまへのご配慮をお願いします。」→「まわりの人のために、静かにお願いします。」
今日のまとめ
- 静かにすることは、日本の思いやり文化を表す行動である。
- 「〜ください」「〜ないように」などの表現には、相手を尊重する心がこめられている。
- 世界の文化と比べると、日本の公共マナーの特徴がよくわかる。
次回:「ことばで知る日本のくらし⑥」。テーマ案:買い物で「いらっしゃいませ」に込められた心。
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